若い人に仕事や役割を任せるとき、本当に必要なのは、すべてを自由にして見守ることでも、先回りして答えを渡すことでもなく、自分で考えて進み、迷ったときに安心して戻れる場所をつくることだと僕は考えています。任せる側が目的と境界線を丁寧に伝え、途中で相談できる関係を保つ。そこで初めて、挑戦は不安ではなく、学びへ変わっていきます。
答えを早く渡すほど、考える機会を奪うこともある。
僕はこれまで、学生や若い方々の「やってみたい」という気持ちに触れるたび、その可能性を少しでも広げたいと感じてきました。最初は自信がなくても、自分で調べ、誰かに相談し、小さな役割をやり切った後の表情には、言葉だけでは得られない変化があります。
一方で、応援したい気持ちが強いほど、失敗させたくない、困らせたくないと思い、つい自分の経験から答えを早く伝えたくなることがあります。僕自身も、前へ進める方法が見えると、説明しすぎたり、結論を急いだりしそうになります。しかし、正しい答えを渡すことが、いつも相手の成長につながるとは限りません。
考える前に答えが届けば、その場は早く進んでも、「なぜそうするのか」を自分の言葉で持てないままになります。反対に、何も伝えずに任せれば、本人は期待されているのか、放っておかれているのか分からず、不安を抱えてしまいます。任せることと放任は、まったく違います。
信頼とは、ひとりにすることではなく、戻ってこられる安心を残すことです。
安心して任せるための、四つの約束。
第一は、「何のための役割か」を共有することです。作業の手順だけでなく、その先で誰に喜んでほしいのか、何を大切にしたいのかを伝えます。目的が分かれば、想定外の場面でも、自分で判断するための軸を持てます。
第二は、「自分で決めてよい範囲」を明確にすることです。自由に考えてよい部分、必ず相談してほしい部分、守るべき期限や約束を最初に分けます。裁量と責任の境界が見えるほど、若い人は安心して工夫できます。
第三は、「相談する時点」を先に決めることです。困ってから声を上げるのは、経験が少ないほど勇気が要ります。途中の確認日や、迷ったときの連絡方法を最初から用意しておけば、相談は失敗の報告ではなく、前へ進むための行動になります。
第四は、「結果だけでなく、考えた過程を振り返る」ことです。うまくいったかどうかだけで評価せず、何を見て判断したのか、どこで迷ったのか、次は何を変えたいのかを一緒に言葉にします。振り返りが次の挑戦へつながると、失敗も本人の中に残る学びになります。
実務では、任せる前に「目的」「期待する状態」「本人が決めてよいこと」「相談が必要なこと」「次に確認する日」の五つを一枚にまとめます。そして途中の対話では、すぐに答えを言う前に、「今どう考えているか」「何が分かれば決められそうか」と尋ねます。相手の考えを聞いてから、必要な情報や選択肢を渡すようにします。
任せる側にも、待つ力が必要です。自分で行った方が早いと感じる場面でも、考える時間を奪わない。予定どおりに進まないときも、責めるのではなく、どこで迷ったかを一緒に確かめる。その積み重ねが、次は一人で判断できる力を育てるのだと思います。
もちろん、僕も相手に合わせた距離の取り方を、いつも完璧にできるわけではありません。率直に質問してくださる若い皆様、挑戦の場をつくってくださる企業や地域、教育に携わる皆様から、僕自身も多くを学ばせていただいています。その一つひとつのご縁と対話に、心から感謝しています。
若い人の可能性は、答えを与えるだけでは広がりません。自分で考え、選び、試し、必要なときに助けを求められる環境が、その人らしい力を育てていきます。これからも、任せたままにせず、先回りしすぎることもなく、安心して挑戦し、何度でも戻ってこられる場所を、皆様と丁寧につくっていきたいと思います。
木ノ根 雄志