やるべきことが増えたときほど、すべてを抱えるのではなく、まず守るものを決める。僕は、その順番が経営にも生き方にも必要だと考えています。時間も人の力も有限だからこそ、「何から手をつけるか」だけではなく、「何を後回しにしてでも守るのか」を言葉にする。そうすると、迷いの中でも次の一歩が見えやすくなります。
期待に応えたい気持ちが、判断を曇らせることもある。
僕は、人から声をかけていただくことを、とてもありがたく感じます。頼ってくださったことに応えたい、新しい可能性を形にしたい。そう思うほど、できる方法を探し、予定の中へ入れようとします。その姿勢が挑戦につながる一方で、抱えるものが増えすぎれば、一つひとつに向き合う丁寧さを失いかねません。
すべてに「はい」と答えることが、必ずしも相手を大切にすることではない。引き受けたのに十分な時間を確保できない、連絡が遅れる、判断が粗くなる。それでは、目の前の期待に応えようとした結果として、かえって信頼を損なってしまいます。僕自身、前へ進みたい気持ちが強いからこそ、増やす判断だけでなく、立ち止まる判断も学び続けています。
優先順位とは、仕事の順番ではなく、大切なものを守るための意思表示です。
迷ったときに確かめる、三つの基準。
第一は、「すでに交わした約束を守れるか」です。新しい機会には魅力がありますが、今向き合っている方への責任が薄くなってはいけません。期限だけでなく、必要な質、連絡、相手が安心して進められる状態まで含めて、約束として考えます。
第二は、「自分たちにしかできない判断か」です。自分が抱えた方が早いと感じても、目的と基準を共有すれば、仲間の力を借りられることがあります。任せることは責任を手放すことではありません。相手を信頼し、必要な支援を用意し、最後まで結果に向き合うことだと思います。
第三は、「続けた先に、誰の良い変化があるか」です。目の前の忙しさだけで比べると、声の大きいことや期限の近いことに引っ張られます。けれど、本当に守りたいのは、人の安心、挑戦する機会、長く続く信頼です。その仕事を続けることで誰が助かり、何が良くなるのかを考えると、やることと、今はやらないことの境界が見えてきます。
実務では、予定を並べる前に「守る約束」「自分が担う判断」「生み出したい変化」の三つを書き出します。そのうえで、今週やること、誰かに相談すること、今回は見送ることに分ける。見送る場合も、曖昧にせず、理由と感謝を丁寧に伝えることが大切です。断ることではなく、守れる約束だけを誠実に結び直すための判断だと考えています。
もちろん、僕もいつも迷わず決められるわけではありません。大切な機会を逃すのではないか、期待を裏切るのではないかと不安になることもあります。そんなとき、率直な意見をくださる方、支えてくれる仲間、待ってくださる皆様の存在に助けられてきました。一人で正解を抱え込まず、状況を共有し、力を借りることも責任の一つだと学んでいます。
できることを増やすだけでなく、大切なものを大切なまま守る。忙しいときこそ、その原点へ戻りたいと思います。これからも、ご縁への感謝を忘れず、交わした約束に丁寧に向き合いながら、皆様と一つずつ確かな歩みを重ねてまいります。
木ノ根 雄志