YUJI KINONE 木ノ根 雄志
新規事業 読了目安 5分

新規事業は、広げる前に、
最初の一人が迷わない形をつくる。

新しい事業を広げる前に、まず一人の方が、知るところから使い終えるところまで迷わない形をつくる。その小さな実装に向き合うことが、事業を育てる確かな出発点になると僕は考えています。

新しい事業の構想を話していると、届けたい相手や、実現したい機能が次々に増えていくことがあります。可能性が広がるのは、うれしいことです。ただ、最初から多くの方へ届けようとするほど、目の前の一人がどこで迷うのかは見えにくくなります。

僕は、広げ方を考える前に、まず一人の方が、知るところから使い終えるところまで進める形をつくりたいと思っています。その方が安心して試し、自分に必要かを判断し、使った後に感じたことを伝えられる。そこまでつながって初めて、事業の入口ができたと言えるのではないでしょうか。

できることを増やすほど、相手の一歩が見えにくくなる。

新規事業では、将来の可能性を示すことも大切です。けれども、できることをたくさん並べるだけでは、初めて知った方に「自分には何が関係するのか」が伝わりません。役に立ちたい気持ちが強いほど、説明も機能も足したくなります。僕も、その気持ちに引っ張られないよう、誰のどんな一歩を支えるのかへ何度も戻るようにしています。

一人に絞るのは、市場を小さく考えるためではありません。名前も顔も見えない大勢ではなく、困っている場面や判断の迷いを想像できる距離まで近づくためです。そこで起きる戸惑いを丁寧に見ると、構想の言葉と、実際に使う方の体験とのずれが見えてきます。

広がりは、最初の一人を丁寧に支えた先に生まれます。

入口から使った後まで、一つの流れとして確かめる。

最初に確かめたいのは、その事業を知った方が「自分のためのものか」を判断できるかです。誰の、どんな困りごとに向き合うのか。何ができて、まだ何ができないのか。短い言葉で説明できなければ、伝える側の中でも目的が揃っていない可能性があります。

次に、試すまでの流れを見ます。申し込み方や使い方を、つくった側の知識がない方でも理解できるか。途中で迷ったときに、戻れる案内や相談先があるか。仕組みが動くことだけでなく、相手が不安なく進めることまでが実装だと考えます。

そして、使った後の変化を聞きます。想定していた困りごとは軽くなったのか。負担を増やした場所はなかったか。続けて使いたい理由と、使いにくい理由の両方を受け止めます。良い反応だけを集めず、言いにくい違和感にも耳を傾けることが、次の改善を決める材料になります。

実際に進めるときは、まず「この人が、この場面で、ここまで進める形をつくる」と一文にします。その一文に沿って、知る、判断する、試す、使う、振り返るという流れをたどります。説明を足す前に迷う場所を減らし、機能を増やす前に必要な体験をつなぐ。小さくても端から端まで通る形なら、次に直す場所がはっきりします。

もちろん、一人の声だけを全員の答えにすることはできません。大切なのは、その声を正解として固定するのではなく、別の方にも同じ迷いがあるかを確かめることです。共通する困りごとが見えたら少しずつ広げ、違いがあれば無理に一つへまとめない。相手を見ながら範囲を決める姿勢を持ち続けます。

新しい試みに時間を使い、率直な感想を伝えてくださる方の存在は、本当にありがたいものです。分かりにくかったことや期待と違ったことまで話していただけるからこそ、つくる側だけでは見えない課題に気づけます。その言葉を、弁解ではなく改善で返したいと思います。

大きな構想を持つことと、目の前の一人を大切にすることは、反対ではありません。最初の一人が迷わず進める形をつくり、その方の声から学び、次の一人へ少しずつ良くして渡していく。これからも、広さを急ぐより、信頼して使っていただける小さな実装を積み重ねていきたいと思います。

木ノ根 雄志

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